大阪府立生野聴覚支援学校児童事故裁判 大阪高裁判決について(声明)
2018年2月1日、大阪府立生野聴覚支援学校前の交差点に突っ込んできた重機にはねられて、井出安優香さん(当時小学5年生)が亡くなるという、痛ましい事故がおきました。遺族は2020年1月に加害者と加害者の元勤務会社を相手取り、大阪地方裁判所に民事訴訟を起こしました。この詳細は日本聴力障害新聞(以下、日聴紙)2021年4月1日号(第856号)で報道されています。
公益社団法人大阪聴力障害者協会は、2021年4月より、日聴紙の取材を通して、井出安優香さんの父、井出努さんとつながりを持ち、署名運動などで支援することを約束しました。
しかし残念ながら、大阪地方裁判所の判決は「聴覚障害者はきこえる人よりコミュニケーション能力が劣っているので、労働能力も劣る」という、医学モデルの考え方を理由とし、逸失利益は労働者全体の平均賃金の85パーセントとするというものでした。これは私たちきこえない人の人権を軽視する、優生思想にもとづいた差別的判決であり、遺族はこの判決内容を不服として、2023年3月10日に大阪高等裁判所に控訴しました。
2025年1月20日、大阪高等裁判所の判決は、「障害者権利条約による国内法の整備、社会モデルの浸透、デジタル技術の進歩により、安優香さんが就労年齢に達するころには、社会的障壁もささやかな合理的配慮によって取り除くことができ、きこえる人と同じ職場で同じ条件で働くことに支障はない」ことから「逸失利益の減額理由は見当たらない」として、平成30年の全労働者の平均賃金を算出基準とするものでした。逸失利益の減額なし、100パーセントきこえる人と同等という判決は、過去に前例がないものです。
この公正な判決は、井出さんご家族の強い想いはもとより、きこえない・きこえにくい弁護士を含む弁護団、一般財団法人全日本ろうあ連盟および加盟団体の皆さん、また全国の手話関係者、障害者団体、ほか多数の皆さんのあたたかいご支援の成果です。大阪高等裁判所に対する署名は、最終的に累計28,553筆となりました。
公益社団法人大阪聴力障害者協会は、きこえない人の生活と権利を守ることを設立以来の運動目的としています。今後も手話言語による合理的配慮の提供のもとに地域共生社会を実現し、聴力の数値により判断する優生思想のない、きこえない人自身の持つ本来の能力が発揮できる社会が実現される日を目指すとともに、引き続き井出さんご家族の支援に取り組んでまいります。
2025年1月29日
公益社団法人大阪聴力障害者協会