大阪府立生野聴覚支援学校生徒交通事故判決に対しての緊急声明

 大阪府立生野聴覚支援学校生徒交通事故裁判で、遺族が約6100万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、大阪地方裁判所は2023年2月27日、約3700万円の支払いを命じました。判決は、「聴覚障害者は聞こえる人よりコミュニケーション能力が劣っているので、労働能力も劣るという医学的モデルに基づく個人の責任を理由として逸失利益は、労働者全体の平均賃金の85パーセント」とし、遺族が求めた損害賠償額を認めませんでした。これは、聴覚障害を理由に基礎収入を下げたことにあり、明らかに障害者を差別する不当判決で、当協会は、到底承服することはできません。

 2018年2月1日、大阪府立生野聴覚支援学校前の交差点に突っ込んできた重機にはねられて、井出安優香さん(当時小学5年生)が亡くなられた痛ましい事件がありました。この事故は日本聴力障害新聞2021年4月1日号(第856号)で報道されました。
 遺族は2020年1月に加害者と加害者の元勤務会社(建設会社)を相手取り、大阪地方裁判所に民事訴訟を起こしました。
 当初、加害者と加害者の元勤務会社は、安優香さんが聴覚障害者であることを理由に逸失利益の基礎収入を、きこえる女性労働者の40パーセントとすべき、理由として聴覚障害者の思考力や言語力・学力は、小学校中学年の水準に留まると主張してきました。当協会は、逸失利益の算出に、障害を理由として数字を低く見積もることは障害者差別であり、優生思想ともみなされる問題とみて2021年5月から、公正な判決を求める要請署名運動を開始しました。

 1ヶ月で、全国から目標の署名数1万筆をはるかに超える101,685筆の署名(電子署名含む)が集まり、2021年7月7日に大阪地方裁判所 第15民事部へ提出しました。これがきっかけとなったのか、被告側が2018年当時の聴覚障害者の平均賃金で算出するという内容の主張を変えてきましたが、障害をもたない男女全体の平均賃金の6割にとどまるという差別的な内容は変わりないままでした。
 この署名運動は2023年1月まで続き、115,197筆もの署名を集めることができました。これは全国のなかまが、差別的な考えの内容を許さず、差別のない公正な判決を望んだことの証です。

 障害者権利条約の理念である障害者への合理的配慮の提供をはじめ、障害を理由とする差別の禁止、国内での障害者差別解消法、障害者雇用に関する法律などがつくられ、デジタル技術の発展でコミュニケーションツールが進んでいるにかかわらず、判決は、障害がある人が障害のない人と変わりなく働きながら力を発揮していく道を切り捨てました。まさに、社会モデルに謳われている社会的障壁をなくし、共生社会の実現を推進している国、司法が障害者差別をしてもよいと言っているのと同様の後退的判決内容です。

 当協会は、全国から集まった115,197筆の署名の想いを込めて、今回の判決に抗議し、差別のない社会の実現に向けて、全国のなかまとともに運動をさらにすすめてまいります。

 2023年3月3日
公益社団法人大阪聴力障害者協会

大阪府立生野聴覚支援学校生徒事故裁判の支援運動について