守口市手話奉仕員養成講座の入札に関して

 2019年7月9日 公益社団法人大阪聴力障害者協会

・2019年度より守口市手話奉仕員養成講座が入札となり、2019年4月18日から告示され、2019年4月25日に落札されました。

・この入札にあたっては、創立50年の長きにわたり、守口市内で聴覚障害者の福祉の向上と手話の普及に取り組んできた、市内当事者団体の「守口市身体障害者福祉会ろうあ部会」「守口市手話サークルあすなろ」に事前に何の相談もなく、市外の営利企業が独自のカリキュラムで講義することを認めた形となっています。

・これは国連の障害者権利条約にうわたれる「私たちのことを私たち抜きで決めないで」という原理原則にそぐわない行為であり、当会として2019年4月22日に守口市長あてに公開質問状を提出し、2019年5月10日に回答をいただきました。以下、回答に対する当会の意見を添えて開示するものです。

守口市に対する「障害者福祉施策に関する公開質問状」への回答とそれに対する当会意見
 ・公開質問状原文(2019.4.22提出)

1.「公益社団法人大阪聴力障害者協会」および、上部団体である「一般財団法人全日本ろうあ連盟」は、福祉に関する事業に競争入札はそぐわないとして反対の姿勢を一貫して示しています。
大きな理由としては、金額のみで判断し、関わる人材のスキルや能力を評価しないことは、人を支援する上でそぐわないものです。福祉現場における競争入札について、貴市の見解をお聞かせください。

(守口市回答)
 福祉サービスに限らず、適切なサービス提供ないし事業遂行を行う上で、当該事業に関わる人材のスキルや能力確保が不可欠であることはお示しの通りです。
 そのため、この度の業者選定にあたりましては、事業の内容や業務従事者の条件を仕様書に詳細に設定し、地方自治法第234集第2項の規定により、市の公金を支出する上での原則となる一般競争入札としたところです。
 障がい者福祉をはじめ福祉サービス実施においては、当事者性をふまえた事業遂行が大切である事業もありますから、そうした事業実施にあたっては、それに相応しい事業者を選定していく必要性は認識しており、今後、事業に応じて適切に選定方法を含め判断してまいります。

【回答に対して】
今回の入札にあたっては「NPO法人手話教師センターの講師研修を修了した者」という条件があり、市の公金による公平な入札とは考えられない。国の施策では、社会福祉法人全国手話研修センターが実施する厚労省認可テキストのカリキュラムに沿った指導ができる講師研修を修了した者が講義にあたるのが一般的かつ公平性が最も高い。
また、手話教師センターは今回落札者のアウトソーシングビジネスサービスにも講師を派遣している団体で、ろう者の使う手話をいわゆる「日本手話」と「日本語対応手話」に分け、彼らの言う「日本手話」だけを有料講座で指導している団体である。手話を区別し限定的な指導法をとることは、手話学習の入口の幅を狭めることにつながり、守口市内で暮らす聴覚障害を持つ市民に対し、本当の意味での支援には結びつかない。
守口市内で使われている日本手話の収集が仕様書に記載される部分は、行政が特定の営利企業の活動を支援する意思表示と受け止められる。

2.4月15日にインターネット上で告示された「守口市手話奉仕員養成研修事業業務委託に係る一般競争入札の実施」について、以下の質問事項に対してご回答下さい。

2-1.委託仕様書6条、14条に「日本手話」の表記が見られるが、守口市として考える「日本手話」の定義を示されたい。一般財団法人全日本ろうあ連盟および加盟団体は、手話は日本語と同等の言語であるとして、「手話」または「手話言語」と表記しており、これが一般的でもあります。わざわざ「日本手話」と表記する理由は何か、ご回答下さい。

(守口市回答)
 一般財団法人全日本ろうあ連盟および貴協会が「手話」ないし「手話言語」と表記されていることは、理解しておりますが、今回の業務委託にあたっては、主に日本国内で使用されている手話と定義づけるために「日本手話」と表記したものであり、この概念(定義)の中には、貴協会等が表記されている「手話」「手話言語」も含まれるものと理解しております。

【回答に対して】
「言語」に対する理解としては、まず「手話」ないし「手話言語」があり、その中に「日本の手話」「諸外国の手話」等が含まれるのが一般的であり、守口市の概念は逆である。
また「日本手話」の表記は手話教師センターが「日本語対応手話」と対になるものとして、ろう者の使う手話言語を分割する言い方であり、今回落札者も同様である。わざわざ一般的ではない、特定団体の概念を落札前から仕様書に記載する点からも、公平な入札であったとはいえない。

2-2.委託仕様書6条に『「手話奉仕員及び手話通訳者の養成カリキュラム等について」を参考とし、日本手話の専門知識に基づいた内容で構成する』とあるが、国の施策に反しつつ特定団体の提唱する教授法にこだわる理由は何か。守口市として、どのような手話奉仕委員養成のビジョンを描いているのかご回答下さい。

(守口市回答)
 仕様書6条に示した「手話奉仕員及び手話通訳者の養成カリキュラム等について」については、厚生省(平成10年7月24日障企第63号)が定めたものであり、一般的なカリキュラムであると考えております。
 本市としては、手話奉仕員を養成することなどにより、コミュニケーション能力の向上をはじめ、聴覚障がい者の支援が行える環境整備に努力していきたいと考えております。

【回答に対して】
市の回答にある厚生省(当時)の定めたカリキュラムには、「日本手話」の単語はなく、単に「手話」と記載されている。また音声禁止の指導を推奨するとも書かれていない。
また、ナチュラル・アプローチ法は手話教授法のひとつにすぎず、これにこだわることは、厚労省カリキュラムの手話奉仕員養成講座にある講義編など、市内の聴覚障害者の支援に必要な知識の教授が抜け落ちている。

2-3.委託仕様書6条に『「ナチュラル・アプローチ」にて実施し、講座中は原則音声禁止とする』とあるが、手話奉仕員養成講座はこれまで全く手話と関わらず生活して来た市民が対象であり、音声禁止だとついてこれない受講生も出てきます。行政として、全員が手話学習に参加できる手段をとるべきではないかと考えますが、貴市の方針をご回答下さい。

(守口市回答)
 手話奉仕員の養成にあたっては、質の高い「手話奉仕員」の養成が本市の課題でした。そのために、今回は「ナチュラル・アプローチ」による実施が望ましいと考えたところです。
 また、原則音声禁止にすることで、手話習得を希望する聴覚障がい者の受講にもメリットがあると考えました。
 なお、市民の方に広く手話を知っていただくことも必要であることから、「手話奉仕員」の養成事業とは別の方法により、「手話」についての啓発及び初心者向けの講座についても行っていきたいと考えております。

【回答に対して】
厚労省の定めるカリキュラムには、音声禁止の指導を推奨するとは書かれていない。
また「質の高い手話奉仕員」とは具体的に何を指すのか示されたい。
国の定める手話奉仕員養成講座は聞こえる人が対象であり、聴覚障害者は対象外である。全国のいくつかの自治体や聴覚障害者情報提供施設で、難聴者向けの手話教室を別途実施していることが、聞こえる人と聞こえない人が混在して手話学習することの困難さを表している。

2-4.委託仕様書14条に「事業者は、守口市で使用されている日本手話の収集に努め、対象者へ教授する」とあるが、守口市内の手話言語については、守口市身体障害者福祉会ろうあ部会と守口市手話サークルあすなろが、団体創立以来50年間に渡って守り、普及を続けて来ました。聴覚障害のある市民が講師として手話を教え、同じく市民である手話サークル役員がフォローするのがこれまでの守口市手話奉仕員養成講座のやり方であり、「市内で使用されている手話の教授」としては最も理想的です。守口市ろうあ部会に委託せず、市外の団体に向けて競争入札とする理由は何か、ご回答下さい。

(守口市回答)
 長年本市において、「守口市身体障害者福祉会ろうあ部会」様や「守口市手話サークルあすなろ」様が、守口市内の手話言語についてボランティア活動として普及活動を行っていただいてきたことは、非常にありがたく思っており、今後も、引き続きお力添えをお願いしたいと考えております。
 なお、今回実施した守口市手話奉仕員養成研修事業は、一般競争入札で業者選定を行ったものであり、市内外を問わず事業者に参入頂くことが可能であったものです。

【回答に対して】
今回の入札実施にあたり、市民で構成する当事者団体の守口市ろうあ部会や手話サークルあすなろに事前の相談も一切なく、資格要件に営利企業の提唱する日本手話の概念を持ち込み、入札参加を制限することは非常識きわまる。
一般競争入札とあるが、入札条件などが今回落札者のアウトソーシングビジネスサービスと関わりの深い手話教師センターに限定したものとなっているのは明白で、公平な入札とはいえない。
守口市内で使用されている手話は、守口市内で暮らす聴覚障害者が培ってきたものである。今回最も問題なのは、市民で構成する当事者団体を無視し、市外の営利企業が日本手話の概念を持ち込んで指導することを守口市が認めたことである。全国で統一された厚労省のカリキュラムを無視し、営利企業独自のやり方を認める事は、逆に守口市民の聴覚障害者の手話を排除することにつながり、当該事業の意義を失うものである。

 以上

守口市手話奉仕員養成研修事業受託終了のお知らせ(守口障害者生活支援事業所みみ)

全日本ろうあ連盟「手話言語に関する見解」

全日本ろうあ連盟「手話通訳制度等に関する入札に対する指針」