手話言語の学習に関する見解
2020年2月19日 公益社団法人大阪聴力障害者協会
1.はじめに
公益社団法人大阪聴力障害者協会および、上部団体である一般財団法人全日本ろうあ連盟は、福祉に関する事業に競争入札はそぐわないとして、反対の姿勢を一貫して示しています。大きな理由としては、金額のみで判断し、関わる人材のスキルや能力を評価しないことは、人を支援する上でそぐわないというものです。
また、「手話言語」は聴覚障害者が集まってコミュニティを形成する中で発生する言語であり、音声言語の方言と同じく、地域によって違いもあります。全日本ろうあ連盟及び加盟団体は、手話は日本語と同等の言語であるとして、手話を区別するような表記はしていません。
2.福祉の入札について
障害者権利条約では、「私達のことを私達抜きに決めないで」というスローガンを掲げています。福祉事業の現場においても、当事者および当事者団体の意見は尊重されるべきです。
昨今、一部行政の姿勢が有識者という名目で学者、教授、研究者等の意向を尊重する流れになってきています。いかに教養があろうと、当事者の気持ちは当事者および当事者団体にしかわかりません。
都道府県・市町村自治体で手話言語条例の制定が進んでいますが、残念ながら、制定後に地域の聴覚障害者団体に相談もなく施策を進める例が散見されます。当事者の存在を無視した施策に何の意味もありません。
最も望ましいのは、真に施策を必要とする当事者団体と深く連携し、共に事業を発展させていくことです。
3.手話言語の習得にあたって
聞こえる人が手話言語を学ぶ場として、障害者総合支援法の意思疎通支援事業による「手話奉仕員養成研修事業」があります。これは同法に基づき市町村が実施する地域生活支援事業の必須事業です。
この事業の実施にあたっては、厚労省通知の「手話奉仕員及び手話通訳者の養成カリキュラム等について」を基本に実施しなければならないとされています(平成10年7月24日障企第63号厚生省大臣官房障害保健福祉部企画課長通知)。
講座で使用されるテキストは、厚労省のカリキュラムとして全国の市町村で使用されており、指導する講師は国が社会福祉法人全国手話研修センターに委託して実施する「講師リーダー養成研修事業」または「手話奉仕員養成担当講師連続講座」を修了した者があたっています。
厚労省カリキュラムで特筆すべきは、単なる手話単語・表現方法を学ぶだけでなく、講義編として聴覚障害者が生活と権利を獲得するまでの歴史や、聞こえの仕組み、聴覚障害者を取り巻く福祉制度などを学習できることです。
4.ナチュラル・アプローチ法について
手話言語の効果的な指導法については、今なお各所で研究されていますが、そのひとつに「ナチュラル・アプローチ法」があります。手話言語を目標言語として、目標言語だけで学習する環境にいることで、自然習得をめざす教授法です。
この方式では、現実のコミュニケーションで活用しやすいといわれる一方、体系的な学習ができず崩れた文法が固定してしまうなどの欠点も指摘されています。また、真に習得するまで約4000時間「目標言語のシャワー」を浴びるように触れあう環境にいる必要あるとも言われています。言語教授法の一例として一般的なものですが、これを手話教室に当てはめてみると、週1回、2時間程度の講座方式による手話学習では身に付くものではありません。
5.「手話」は誰のものか
全国の市町村で実施される手話奉仕員養成講座は、その多くが、市町村に在住するろうあ者が講師をしています。かつてはそのようにして地域のろうあ者から手話言語を学習した聞こえる人たちが集まり、手話サークルを立ち上げ、講座での手話通訳やアシスタントを担ってきました。
そして一緒に活動する中で、同じ市町村の中で聴覚障害を持つために悩んでいるろうあ者がいることを知り、制度の不備を知り、そこからろうあ運動が起こり聴覚障害者の暮らしをよくすることにつながっています。
その地域だけで通じる手話も少なからずあります。市町村の聞こえる人は、同じ市町村のろうあ者から学ぶことで、単なる手話言語の習得だけでなく、同じ市町村民の聴覚障害者をとりまく様々な問題を理解することができます。
令和のいま国が掲げる地域共生社会の姿を、手話奉仕員養成講座はある意味先取りしています。
以上